2000年6月某日、一本の電話から始まりました。某ハウスメーカーに依頼して自宅を新築する予定の施主は、ハウスメーカーが建てる住宅の内装だけを珪藻土を使ったりした仕様にできないものかと相談されました。出来ない事もないのですが、ハウスメーカーは頭が固いので二重の出費になる事や工期を分ける必要がある事などを説明し、スタジオダックスで新築もできる事を伝え電話を切りました。数日後、来社したいとの電話をいただいて施主との顔合わせとなります。若い夫婦とまだ小さなお子さんの3人が来社され(現在は4人になりました)自然素材や健康住宅への非常に熱い思いを語られます。こりゃハウスメーカーでは手に負えない感じです(苦笑)じゃあプランしてみましょうとなるのですが、我々にとってもスタジオダックス設立後初の新築でフツフツ湧いてくる物があるのでした。

与えられた敷地は、上大岡駅から歩いて約10分の角地と言う理想的な環境。日当たりも良く好条件がそろっている敷地なので、ちょっとプレッシャーを感じつつ楽しむ訳です。
最初1週間くらいは毎日何十枚とスケッチをくりかえし、徐々に方向をしぼっていきます。2週目にやっと図面を引きはじめるのですが、細部が決まらない内に模型作りを始めてしまいます。インテリアデザイナーはインテリアから追っかけ始めるのですが、アーキテクトデザイナーの私としてはどうしてもエクステリアから攻め始めます。全体のボリュームが決定した段階で図面にもどって細部の調整。我ながらなかなかの提案内容に仕上がって内心ホッとすると同時にニヤニヤしているのでした。その後、打合せやメールでのやり取りを経て基本設計が終了し、正式に設計契約を結ぶ事となります。

暑い夏だった〜。確認申請、実施設計、見積調整を全部一人でしなくてはいけない(大汗)個人経営の事務所の宿命か。幸い施工をやってくれるKIMI建設は長い付き合いで色々助けてくれるので大変ありがたい。 工事契約をし、確認申請、公庫審査が終了した頃には夏も終わり、気付けば11月になっていたのでした。

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角地と言う抜群の立地条件です。台形の敷地形状を生かして手前に低層のはなれを配し、奥に2階建ての母屋を配して奥行き感を演出しています。見る角度によって色んな表情をみせてくれる建物を目指しました。外壁は白い塗壁で横浜の青い空に似合います。ナチュラルな木の質感をバランスよく配置し空間のアクセントにしています。

低層棟と母屋の間にウッドデッキの中庭を配し、気候の良い時期には窓を開け放ってインテリアの延長として機能します。都会ではなかなかプライバシーを守れる外部空間は難しいのですが、ここなら安心して子供を遊ばせる事ができます。また、夜はライトアップされて、大人の空間にもパーティー会場にも多目的に使えます。ほどよい閉鎖感が安心を与える空間です。

珪藻土とパインの無垢を使った健康で素朴な空間はスタジオダックスのリフォームでお馴染みの構成です。マンションではなかなか実現できない2階とつながる吹き抜けなど、建築的な要素を盛り込めるのは楽しみでもあり苦労の連続です。素朴でありながら機能的なコンテンポラリーオープンキッチンから日々のお子さんの成長を見守ります。無垢な素材は日々変化します。無垢ならではの短所を理解し長い目で付き合って行けばそのすばらしさが実感できるでしょう。
一番の目玉である中庭が良く解ります。開放的であり、プライバシーが保護される事を考慮した空間です。外でありながら、インテリアの延長としても使える多目的なスペースを提案しています。空気がたまりやすい形状ですので、風がぬける工夫も考慮してあります。
建築の場合、図面や絵だけではなかなか施主に設計の意図やイメージ、ボリュームなどが伝わりません。模型で説明すると一気に話が進みます。初期の基本設計段階では、模型を見ながらの打合せが欠かせません。
初期段階の模型なので細部が実際の建物と色々違っていますが基本はこのままです。この建物の特徴である2棟建ての形状やボリュームは施主に説明するだけでなく、設計している我々が検討や確認する作業にも役立っています。
複雑な形ですが実はただの四角い箱が2つ配置されているだけの建物です。これは外断熱通気工法を採用した為、複雑な形状の建物では十分な性能を発揮できないからです。建物の配置やバルコニーなどを工夫して面白い外観になりました。
個人的に一番好きなカットです。実際にはそんなに道路が広くないので撮れないカットですが、建物のボリュームと中庭の様子がとても良い雰囲気です。実際、非常に居心地がよい空間になりました。
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地鎮祭で神に工事の安全を祈った次の日から工事スタート。軟弱地盤と地下水に苦しめられながらの地下工事が終了しました。心配していた内部への地下水の影響もなく、環境の良い地下室になりそうです。しかし地下の工事で予想以上の時間が喰われ、2000年内のRC工事終了予定が来年に持ち越しとなります(汗)
年が明け、21世紀になりました。実感ないけどなんかすごい事らしい。
残りのRC工事が終了し、充分な養生期間を経て大安吉日に上棟です。狙い通りの空間に満足。しかし私が設計すると柱が多く、梁が太い!!スジカイが入ってなくても建物が固まってる・・。頑丈なのはいいけど大工さんごめんなさい。
2001年2月に入って木工事が本格化。内装もけっこう大変なデザインですが、外装はもっと大変。屋根はアールだし、外断熱の通気工法なもんで外壁も普通の家の何倍も工程があります。そこへ雪や雨が多くてしかも寒い。大工さんを始め職人さんには頭が下がります。2階から吹き抜けを通して1階を見ると、木製サッシュも相まって中庭と建物とのつながりが気持ちよく、ここでの家族の生活が想像できます。
2001年3月になって大変だった外部の断熱工事や下地がすべて終了し一安心です。これで雨でも雪でも仕事ができます。2階のベランダから低層棟のきれいなアール屋根を見ると心配していた反射光もなく、中庭の様子も狙い通りでほくそ笑みます。
外部と断熱に時間をとられたので、内装があまり進行していないのがちょい気になりますが、まァ予想の範囲内なので問題ないでしょう。
2001年3月後半になって内装の木工事がバタバタと仕上っていきます。現場に行くと4人の大工がそれぞれの持ち場で手際良く仕上げてくれています。工事も残り1ヶ月ちょっと、内外部共に湿式の仕上げで時間がかかる為、ここからが勝負です。
浴室の天井の杉板が仕上りました。このままだと和風か山小屋になってしまうので、これから白くペイントします。ちょっと表情の粗い杉板をわざと使用し、ペイントした時に木目や節の表情が浮き出る事をねらっています。
2001年4月に入って、いよいよ残り一ヶ月で竣工です。内部の大工仕事はほとんど終わって、珪藻土の左官工事が入る前にペイント仕上げの部分が進んでいます。乾きの遅い自然塗料のオスモを使用するので、時間的に余裕をもたせる工程管理が必要で、現場監督の経験と力量が試されます。
2階吹き抜け周りの手すりです。小さなお子さんの安全と光と気配をさえぎらない、シンプルなパイン手すりです。パインのコンテンポラリーキッチンも取り付きました。今回も良い材料が手に入ったので、精度が良く節目も美しい存在感の有るキッチンになりました。
外壁も下地はほとんど仕上って、仕上の左官が始まりました。本当にスタジオダックスは左官仕事が好きで、内外装共に左官屋さんがいっぱい作業しています。時間も手間もかかって工務店はいつも泣いていますね(苦笑)
工事もいよいよ追い込みで、色んな業者さんが入り乱れています。あともう少しです。
引渡しまで2週間を切って、現場は血走っているかと思えば、けっこうホノボノと作業が進んでいます。さすがスタジオダックスの仕事に慣れた職人達ですね。
いよいよ足場が取れて建物の全容が姿を現します。白い存在感のある建物が現れて、道行く人が皆見上げて行きます。外壁のコテ跡が残った左官仕事も良い仕上がりで、軽いイメージの建物に程よい重量感を与えてくれています。
内部は建具が吊られ、珪藻土壁が半分ほど仕上って、やっと仕上がりの先が見えてきました。ここまでくると後は細かい作業を進めれば良いので楽になります。外構に多少の工事が残りそうですが、このペースならほぼ納まってしまうのではないかと楽観的に言ってると、現場監督が微妙な顔をしてこっちを見ています。ハハ
2001年5月1日大安。ようやく引き渡しです。さすがに最後はバタバタで、しかもゴールデンウイークのまん中で細かな金物などが届かず、完全な完成には至りませんでした。また、細かなダメ工事と外構の一部の工事が残りましたが施主さまにご納得頂けました。

夜にはさっそく引っ越されてゴールデンウイークは片付けでつぶれてしまいそうです。施主さまには大変喜ばれ、現場監督や職人さん共々ここまでの苦労が吹っ飛びます。ゴールデンウイーク終了後に残った外構工事を仕上げて完全完成です。これからもメンテナンスやコーディネートと施主さまとは長い付き合いになりそうですね。

終わり

その後:
あれから数年、たいした不具合もなく現在に至っています。もちろん無垢素材がメインなので反ったり割れたりした部材もありますが、それらの特徴を施主も理解されているのでうまく付き合って頂いている様です。パイン、米松、シダー、などイイ色に焼けてきました。植栽や芝生も育ち、子供も育っています。映らなくなるまで使い倒したテレビもプラズマテレビに変わって、ゆっくりとそして確実に時を重ねていますね。
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