※以下は2002年の「田中がつぶやく」に掲載したものを加筆、再編集したものです。

マックが好き。学生時代に出会ってから現在にいたるまでいったい何台のマックを買い、いったいいくら出費したことでしょう?

若い方々にとってアップルと言えばiPhoneやiPodにiPadを作っている会社。マックの存在はかなり薄い事でしょう。「マック」の語源が「マッキントッシュ」というコンピュータの愛称(略称)であった事も知らない可能性が高い。

 

最初に買ったのが「Macintosh SE/30」フロッグデザインがデザインした美しく小さな箱に当時の最先端の技術が詰まっていました。大体80万円くらいしたでしょうか。最近のマックしか知らない方は驚かれるかもしれませんが、当時のマックはとても一般的に普及するような代物ではありませんでした。プリンターも買えずに本体に付属しているアプリケーションだけで遊んでいたものです。と言うより当時のマックは「かたことの日本語を喋るアメリカ人」で、日本の仕事をこなすレベルにはなかったのです。英語もしくは理数系の仕事には使えましたが、私のような文系人間には単なる「おもちゃ」でしかありませんでした。そんなおもちゃに大金を注ぎ込むバカもあまりいませんでした・・。

しかし画面の中に絵を描いたり文字の大きさが自在に変えられたりフォントを選べるなど、今では当たり前の事ができるのは当時マックだけで、それだけでワクワクするおもちゃだったのです。白黒モニターの中にフライングトースターがパタパタ飛び回っている姿が目に浮かぶ人は変わり者だけど多分いい人です。

ウチの事務所にはそのSE/30がかざってあります。さすがに電源をいれる気にはなりませんが、私のマック人生がここからはじまったのだと時々掃除して拝んでいますよ。そのSE/30は後にカラーモニターをつなげてフルカラー環境に拡張し、やっと日本語がまともにしゃべれる様になってきた頃合いを見てプリンターが接続され相当働いてくれました。でも、3Dソフトで簡単な室内空間を作ってライティングシュミレーションをレイトレーシングした時なんか40時間近くかかって計算したにもかかわらずショボい画像しか出力されない笑える仕事ぶりでした。

 

そんなこんなで特に買う必要も無いのに欲しいモデルが発売されるとついつい買ってしまう、当時よく言われていた「シャッキントッシュ」にハマります。

ところがフロッグデザインが関与しなくなり名プログラマも次々離脱。創業者のジョブズがアップルからしめ出される頃になると、信じられないくらい格好悪く性能バランスが最悪な醜いモデルが次々登場して来ます。まねっこゲイツちゃんのウィンドウズがブームになる頃には高く格好わるいマックをあえて買う人はいません。まわりがウィンドウズユーザーばかりになると、互換性のないマックはますます買う人が居なくなってしまいます。研究機関やグラフィック関係、唯一独占状態だったDTP業界にしか使われない片寄ったつまらないビジネスマシンに成り下がってしまいました。そんな状態でもOSやアプリケーションは着実に進歩し、ウィンドウズでも当たり前に使われている業界標準の技術や仕様のほとんどをアップルが最初に世に出し続けるなど技術屋集団としてのアップルは死んでいなかったので、古いマックをカスタマイズしながら細々と使いつづける事になります。しかしマックならではの楽しくマニアックなソフトやハードを作り続けていた老舗サードパーティーや新興メーカーが次々と倒産もしくはマック市場から撤退。マック好きには暗黒の時代を迎える事になります。

 

iMacの登場は衝撃的でした。その後の家電から文房具まで何でもかんでもスケスケになったスケルトンデザイン(アップルではトランスルーセントと呼んでいます)や形ばかり賞賛されますが、性能と価格のバランス、フロッピーやスカジーなど今まで当たり前の仕様をいさぎよく捨てるなどマックの原点に立ちかえった姿が久々にワクワクさせたものです。

なぜiMacが誕生したのか?それはジョブズがアップルに復帰したから。それだけです。アップルの創業者でありカリスマ。非常識でわがままなジョブズだからこそアップルと言う会社ができマックが生まれたのです。iMacは現代版のLisaでありMacintoshそのものなのです。

 

初代iPodが発売された頃、社名が「アップル・コンピュータ」から「アップル」になりました。コンピューターメーカーからの脱却を宣言した瞬間でしたが、iTunes Storeもまだない頃の初代iPodを購入した者にすれば「こんな単なる音楽プレーヤーで何が変わるの?アップルはいったいドコに向かっているのだろう?」と本気で冷ややかに見ていました。まさかその後の音楽革命やら携帯端末やタブレット端末で万人のライフスタイルまで変えちゃう事なんて想像もできませんでしたよ。ジョブズのビジョン恐るべしですね。

こうなってくると技術的にはほぼ成熟していてどうも新鮮味が薄いマックの今後がとっても気になるところです。iPhoneやiPadなどのiOSデバイスとの相性がいいマックはデジタルハブとしてベストだ。会社ではウィンドウズだけど自宅ではおしゃれなマックを使うなどファッション感覚もアリか?

とにかく一度マックを使ってみてほしい。直感で操作できる感覚はピカイチだ。一度慣れるとiOSデバイスなどの指で直接画面を操作する事すらイライラする。いちいち思考を妨げるウィンドウズなんか論外だ。

 

ジョブズが逝ってしまった。そしてアップルのビジョンはマックからiOSデバイスへシフトし始めている。マックを取り巻く環境はふたたび暗黒時代へ流れるのか?明るい未来が用意されているのか?良くも悪くもアップル信者の楽しみはつづくのだ。(スタジオダックス/田中賢二)