※以下は2009年の「田中がつぶやく」に掲載したものを加筆、再編集したものです。

シグマという光学機器メーカーがつくるマイナーなデジタルカメラのファンサイトを作っていたけどもう何年も更新していない。相変わらずシグマのデジタルカメラだけを使い続けてはいるけれど、個人的にはすでに実用のレベルに達し、ファンサイトを更新し続けるほどの特別な事ではなくなっちゃってるのよね。そのファンサイトを更新しなかった間にも、シグマのデジタルカメラには大革命が起きていたのでした。

まずは、シグマ製デジタルカメラの核である異端イメージセンサ「FOVEON X3」
この世界で唯一の三層ダイレクトイメージセンサを生産する米フォビオン社をシグマが買収してしまった。これはスゴイ。非上場の光学機器メーカーがセンサの製造開発までできるなんて!!フルサイズフォビオンセンサも夢じゃない?妄想は膨らみます。

そして、「DP1」「DP2」というコンパクトデジタルカメラの発売。

薄く軽く多機能低価格に各カメラメーカーがしのぎを削る中、コンパクトデジタルカメラとしては大きく異彩を放つ無骨なデザイン。ズームも手ぶれ補正もないシンプル機能の単焦点デジタルカメラ。こんな一見かなりの時代遅れに見える仕様なのに実売7万円近くもする。当然値段が高い理由があるんだけど、中身を知らない人や間違って買っちゃった人にはたぶん理解されないであろう特性と性能。そんなマニアックなデジタルカメラを開発し発売までこぎつけたメーカーといえば・・やっぱりシグマだ。おもしろい会社だな。

そんなDP1、DP2の登場はイイ意味で事件だったのでした。

シグマがフォビオンセンサ搭載のコンパクトカメラを開発している噂はかなり前からあったのですが、実は個人的には全然期待していなかったのです。だってSD9からSD14まで、その異端なセンサを搭載した一眼レフカメラをずっと使ってきて、圧倒的な魅力と同時に欠点もいっぱい知っちゃったから。数年前にポラロイド社がフォビオン搭載コンパクトカメラを発売して大コケした経緯も脳裏をよぎります。フォビオンセンサのノウハウを蓄積し、優秀なレンズの設計製造が自社で出来るシグマならポラロイド社よりはマシなモノを作る事は想像できるけど技術的なハードルはかなり高いと感じます。しかもコンパクトカメラにAPS-Cサイズ相当の大型センサ搭載は世界初(2009年当時)の大革命。大手カメラメーカーでさえ手を出せない大冒険です。

でも・・フォビオンセンサ搭載カメラで液晶画面を見ながら撮影したら手ぶれ量産でクレーム殺到の予感・・フォビオンセンサでライブビューなんかしたら熱でノイズ出まくりじゃねえの?・・さらに・・どう考えても高額になるでしょう。

それから数年。本当に発売しやがった!

そして公開されたサンプル画像にただただ圧倒されます。こりゃスゴイ!!これがコンパクトデジタルカメラの作る画か?う~ん・・やられた。間違いなくSD14以上。こんなモンをポケットに入れて持ち歩けるなんて冗談みたいだ。DP1は発売当初約10万円。やっぱり高いな。でも予想よりは安いかな。どうしよう・・オレにこいつは必要か?でも単純に欲しいな。それより・・

シグマ大丈夫か?

さんざん検討したら買わない理由がなくなっちゃったので、発売されてから2ヶ月後にウチにもDP1が届きました。

のんびり動く駆動系。洗練されていない操作系。無骨だが見ようによってはノスタルジックな外観・・・マニア心をくすぐる要素が満載です。

そんなDP1はSD14と同等?いや、それ以上の高画質な画像を吐き出します。それはレンズ交換が出来ないがゆえのフォビオンに最適化されたレンズ設計のなせる技。そして画像処理プロセスもSDシリーズとは違った新たなモノになっている模様です。

予想以上にブレないし、遅いけどオートフォーカスは優秀だ。だけどやっぱりカメラとしては未完成すぎる・・。ネット上では賛否両論、当初はなんだか大騒ぎでしたね。コンパクトカメラになったおかげで確実に増えた初フォビオンの方々には色んな意味でかなりショックな出来事だった模様です。

その後、後継機のDP2が発売。DP1とDP2の大きな違いはレンズ。広角域のDP1と標準域のDP2。細かな性能や機能の違いもあるけれどそれらはたいした違いではない。標準域は必要ないのでとりあえずDP2はパスかな?

シグマはカメラも造っているけど、カメラ交換レンズのサードパーティーが本職。だから対応する大手カメラメーカーを立てる事も重要でしょう。だから自身がカメラを作るには他社と競合しないまったく違った独自のアプローチが必要でした。それが革新的ではあったものの未成熟な、他社がどこも手をつけていないフォビオンセンサの採用でした。そのフォビオンを搭載したSDシリーズはマニアや一部のプロには絶大な人気があったとは言え、一般的にはまったく受け入れられないクセの強いカメラでした。

営業的にはそんなに成功したとは思えないけど、その間に確実にフォビオン技術を成熟させ、いつの間にか他社が真似できない独自のノウハウとリアル解像という世界観を確立してしまった様です。

その集大成であるDP1、そしてDP2。フォビオンセンサには興味があったけどシグマ独自のマウントがネックとなってSDシリーズには冒険できなかったマニアやセミプロがこぞってDPシリーズを購入し体感しています。そしてデジタルカメラ業界の消耗戦には最初から参戦しない独自のスタンスはとても貴重で価値がありますね。

このDPシリーズを既存のコンパクトデジタルカメラと同じ「土俵」の上で評価したり判断したりする人がいるようだけどそれはちょっと間違っています。外観こそコンパクトデジタルカメラではあるけれど、まったく新しいカテゴリーに組み入れるべきカメラでしょう。既存コンパクトカメラとの比較はナンセンス。同じセンサを積んだSDシリーズとの比較でさえ意味がない、まったく新しいジャンルのデジタルカメラです。

例えばSDシリーズにDP1と同じ画角のレンズをつけて撮ってもそれぞれまったく違ったニュアンスの画になることでしょう。性能うんぬん以前にDPシリーズは仰々しい一眼レフと違って気楽に被写体と向きあえるサイズ、そしてそのサイズにリアル解像のフォビオンセンサが搭載されている事にこそ意味があるのです。

DPシリーズによって確実にシグマの技術やビジョンは広く認知される事となりました。新ジャンルを開拓したDPシリーズは頭打ちのデジタルカメラ業界に風穴をあける「作為の異端」です。

 

DP1、DP2を買ったら幸せになれますか?

 

扱いにくい一眼レフタイプのSDシリーズを買うよりは幸せになれますが、一般の方々は大手カメラメーカーの普通のデジタルカメラを買った方が幸せになる確率は確実に高い。そして、SD9からの鍛えられたフォビオンユーザーは確実に幸せになれます。

 

追記:

その後、DPシリーズは

DP1s、DP2s、DP1x、DP2x

とちびちびマイナーバージョンアップを繰り返してきましたが、2012年には大きく変わります。新生フォビオンセンサを搭載したDP1 MerrillとDP2 Merrillが登場します。ますます扱いにくくなってマニアックになっていきそう。楽しみだな〜。
(スタジオダックス/田中賢二)